漫画原稿を描く際は様々な手法を用います。今回は心の動き以外にも多様な場面で使われる「カケアミ」と「点描」に注目したいと思います。
「カケアミ」は異なる方向に引いた線を重ねていく手法です。
右下の吹き出しを囲む部分と黒髪のキャラクターに使われている
心情表現を描く際はモヤモヤする複雑な気持ちを表現するときに多く見られます。
この他にもカケアミは服の柄や、陰影をつける時など様々な場面で用いられます。
柳生忍群(作:小島剛夕)より服の柄と背景の影にカケアミが用いられてます。線の角度が違うので被らないように使い分けをしているのでしょうか。
定規でカケアミが描かれているので、背景のスピード線も相まって人物の勢いを出しているように見えます。
ペン先でトントンと細かく点を打っていく「点描」は、大変根気が要求される作業で、心情表現を描く際はうっとりとした気持ちを表現するときに多く見られます。
上の『げんこつボーイ』(作:高橋よしひろ)のように手で描いたものや、下の『海月姫』(作:東村アキコ)のように※スクリーントーンを使ったものもあります。
(※スクリーントーン:細密な点や線をあらかじめ印刷した糊付きのフィルム)
また、こちらのどじょう(作:矢口高雄)の原画では、どじょうに繊細さと品を与えています。
カケアミや点描は紹介した以外にも使いどころは様々で、線の引き方や使う場面によって作家の個性が出てきます。漫画を読むときは作家の表現の仕方にも注目して見てください。
昔はスクリーントーンも高価だったのでこれらの手法が使われていました。これらの作業は細かい線の一本一本、点の一つ一つを組み合わせて広い範囲の紙を埋める根気が必要で、非常に疲れる作業になります。
今では、デジタルツールやスクリーントーンが出てきて、作業効率が上がり便利になったので、自分の手でカケアミや点描が描ける作家が少なくなりました。
このゲンガノミカタ展を通して作家たちの思わず息をのんでしまうほどの繊細な技術を参考にしてもらいたいです。